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韓国の芸能・性・権力の象徴――性接待ビジネス【後編】

ビッグバン・スンリが“売春斡旋ビジネス”でも罰せられないワケ…現金決済と証拠隠滅

取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基
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2019年6月27日、性接待疑惑で事情聴取後、マスク姿でソウル地方警察庁を出る、元YGエンターテインメント代表のヤン・ヒョンソク氏(写真:アフロ)

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 ビッグバンの元メンバー・スンリによる事件、そして彼が所属するYGエンターテインメントの社長であったヤン・ヒョンソクによる事件は、事実であれば違法だという意味で同種の事件だが、と同時に、驚異的な非難を浴びていながら、法的に処罰される可能性は大きくはない、という意味でも同じ類いの事件だ。

 6月1日、韓国のミン・ガプリョン警察庁長官は、「YGエンターテイメントと関連して提起されたすべての疑惑を解明する覚悟で捜査している」とし、「警察の名誉にかけて捜査していく」と宣言してみせた。今回の件では、事件の舞台となったクラブ、バーニングサンと警察との“癒着”がメディアによって指摘されており、何がなんでも名誉挽回してみせるということなのであろう。

 しかし、スンリと警察との癒着が取り沙汰され始めて以降、3カ月にわたる捜査を経ても、はかばかしい成果は出ていない。ソウル警察庁広域捜査隊を主軸とした専門チームが編成され、警察150人あまりが動員されたというわりには、非常にみすぼらしい結果である。8月中旬からは集団賭博容疑での捜査にも着手されたと報じられたが、起訴まで行くのかは現時点では未知数である。

「共に民主党」のクォン・ミヒョク議員は、ミン警察庁長官に対して「バーニングサンに関する捜査では、スンリだけがスンリ(韓国語で勝利の意)した」と辛辣に批判。芸能界と警察との癒着が明らかにされず、このまま捜査が失敗に終わることに対して懸念を表明してみせた。

 具体的な証言もあり、事実関係も明らかになっているのだが、捜査は難航している。その最大の理由は、スンリとヤン・ヒョンソクがすべて「現金のみ」を使用したからだ。今回の事件は、売春と性接待、さらには薬物までが絡んでいる事件であるため、第三者の証言だけでは容疑を立証することができない。現場を摘発してない以上、証拠が挙がってこないことには起訴は困難。内部証言や金の流れが確たる証拠として出てこない限り、関係者を処罰するのは難しいのである。

売春を証明する証拠はない

 今回の一連の事件の主役のひとりであり、情報提供者の代理人でもあるパン・ジョンヒョン弁護士はメディアに対し、ヤン・ヒョンソク氏を「遊興業界のマンスール」と説明する。マンスールとは、サッカー・プレミアリーグの人気チーム、マンチェスター・シティを買収し、資産100兆円ともいわれるシェイク・マンスール氏のこと。翻って「大金持ちの権力者」を指す。

「売春が処罰を受ける場合、ほとんどが現行犯の取り締まりだ。(中略)私が調べた限りでは、YGのヤン・ヒョンソク元代表は、遊興業界ではちょっとした有名人だった。『遊興業界のマンスール』という表現も使われています。理由は、すべてを現金で決済するから」

 韓国では、風俗店(韓国では性風俗はすべて違法だが、実際には、売春が可能なバーや店舗はまだまだ多い)で、クレジットカードを使うやつはバカだといわれる。かつては、風俗店でも法人名義のカードが使われていたが、景気衰退に伴いコンプライアンスも厳しくなり、個人カードを使う人々が出てきた。クレジットカードの使用自体は問題ないのだが、カードを使うと記録が残ってしまい、トラブルがあった際には警察に呼び出される。これがバカだといわれる所以である。しかし、風俗店で大きな金額を現金を決済できる者は決して多くはない。ましてや、チョンマダムが運営するような店で数十人の女性を手配し、しかもそれを現金で決済するとなると、一部の限られた人間にしか不可能であろう。

 パン弁護士は、現金決済が可能な選ばれたマンスールたちは、まず取り締まりに引っかかることはなく、同時に風俗店やそこで働く女性たちの信頼を得ることができると話す。となると、当の本人であるヤン・ヒョンソクらの証言なくしては、警察であれ検察であれ、証拠を挙げ容疑を立証することはきわめて困難である。

「ヤン・ヒョンソク氏は、チョンマダムをはじめ遊興業店に従事する人たちからは、現金払いの太客として認知度が高かった。となれば、売春をした本人がみずから証言でもしない限り、売春の事実を証明する証拠などほとんどありません」(パク弁護士)

韓国の芸能・性・権力の象徴たる性接待ビジネス

 警察との癒着の問題は別にしても、以上のような理由から、色街の掟やルールに精通したヤン・ヒョンソクスンリを法的に裁くのは極めて困難なようだ。金持ちであるのみならず、緻密に計算されたうえでなされた性接待なのだ。マダム・チョンもメディアへのインタビューで、性接待疑惑が浮上した後にヤン・ヒョンソク側の人間が電話をかけてきたことを明かし、「警察の調査で証拠が出る線は希薄。ヤン・ヒョンソクが、『私が調査を受けることはないだろう』と話していた」としている。マダム・チョンが、女性を派遣しはしたが「売春までは指示していない」としたのと同じ論法を、ヤン・ヒョンソクも採用しているということだろう。

 江南では、バーニングサンの後に続くような巨大なクラブがオープンしている。金と性、権力のメカニズムをよく知る、ヤン・ヒョンソクやスンリ以外の新たなマンスールたちが、この商機を逃すわけがないのだ。4月に新沙駅付近にオープンした「Label」は、すでにバーニングサンと同じような高額営業を始めているとされる。しかも、バーニングサンに勤務していたスタッフや常連客も集まってきているという。

 専門家たちは、Labelや他のクラブが、“第2のバーニングサン”になるだろうとたびたび警告を発している。韓国の芸能・性・権力の象徴である性接待ビジネス問題は今後も、どこかで問題化しては忘れ去られ、そして再びどこかで事件化する――という負のサイクルをたどり続けるしかないのかもしれない。

(取材・執筆=Dan Ryu【韓国紙記者】、翻訳・構成=河鐘基)

河鐘基

河鐘基

1983年北海道生まれ。株式会社ロボティア代表取締役。テクノロジー専門ウェブメディア「ロボティア」を運営。著書に 「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則」(扶桑社新書)、「ドローンの衝撃」(扶桑社新書)、「ヤバいLINE 日本人が知らない不都合な真実」(光文社)。訳書に「ロッテ 際限なき成長の秘密」(実業之日本社)、「韓国人の癇癪 日本人の微笑み」(小学館)など。

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