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新型コロナ恐慌でホームレス激増の恐れ…消費増税との二重苦、リーマンショック以上の打撃か

文=林克明/ジャーナリスト
要望書を渡す北畠卓也氏(左)
要望書を渡す北畠拓也氏(左)

 昨年10月に行われた消費税10%への増税の打撃で、2019年10~12月のGDPは、年率換算で7.1%減という驚くべき数字が出た。11年の東日本大震災後の5.5%減よりも深刻な打撃を与えたのが消費増税である。

 08年のリーマンショック時は、四半期のGDPが年率換算で17.7%減だったが、今回は消費税増税に新型コロナウイルスショックが重なったため、それ以上の打撃を受けるのはほぼ間違いないとみられている。

 自粛により、大幅な売り上げ減、倒産、解雇、派遣切りなど、社会に深刻な事態が広がっている。そうなると、もっとも弱い立場の人々が一層困窮し、それが社会全体に拡大していく。

 現在ホームレスの人に加え、ロックダウン(都市封鎖)が起きれば、都内だけで4000人いるといわれるネットカフェ難民など安定した住宅を確保できない人々が、路上にたたき出される危険が迫っているのだ。

 こうしたなかで4月3日、ホームレス支援を行う複数の団体の代表が東京都庁を訪ね、「新型コロナウイルス感染拡大に伴う路上ホームレス化の可能性が高い生活困窮者への支援強化についての緊急要望書」を、小池百合子都知事および東京都福祉保健局長宛てに提出した。

宿泊施設の確保など4つの提言

 今回の緊急提言を呼び掛けたのは、市民によるホームレス問題の調査や参加型まちづくりのプロジェクトを実施してきた北畠拓也氏だ。

 賛同したのは、「ホームレス総合相談ネットワーク」「有限会社ビッグイシュー日本」「一般社団法人つくろい東京ファンド」「新宿連絡会」「認定NPO法人ビッグイシュー基金」「特定非営利活動法人TENOHASI」の6団体。

 呼びかけ人の北畠氏は、提言の趣旨をこう話す。

都庁の記者会見室。席を離すための貼り紙
都庁の記者会見室。席を離すための貼り紙

「日本でホームレスというと、文字通り路上生活をしている人々だけを指します。しかし、都内に4000人いるとされるネットカフェ難民のような人々は、施設が営業停止になれば行き場を失ってしまう可能性が高く、緊急対策が必要です」

 実際、仕事とセットで会社の寮に住んでいる派遣労働者が派遣切りに遭い、寮から退去させられる例も出ている。また、路上生活ではないものの、24時間営業のファストフード店、個室ビデオ店、サウナなどで雨露をしのいでいる人も多い。

 自粛が進み、あるいはロックダウンなどという状況になれば、不安定な居住環境の人は、文字通り路上生活を余儀なくされる危険性が高い。そのため今回、都に対して下記の4つの要望を伝えた(趣旨)。

(1)民間支援団体と連携しながら巡回相談を強化し、即日なんらかの支援につながる措置を図ること。
(2)ホテルの空き室、民間施設の借り上げ、公共施設利用による一時的な居所の確保等。
(3)支援ニーズを把握したうえで、積極的に生活保護などの既存制度につなげること。
(4)さらなる感染拡大時や感染終息後の悪化による生活困窮者増加への対応。

ロンドンではホームレスにホテル居室提供

左から後閑一博氏、北畠卓也氏、稲葉剛氏、清野賢司氏
左から後閑一博氏、北畠拓也氏、稲葉剛氏、清野賢司氏

 世界各国が、休業、失業、収入激減、家賃支払いなどに関し、大規模な財政出動で現金支給などに踏み切っているなかで、日本政府の対応は鈍い。

 今回の要望書には実情を示す資料が添付されており、海外のホームレスへの対応をいくつか例示している。

 たとえば米カリフォルニア州では、ホームレス状態の人々にモーテルやホテルを一時的な避難場所として借り上げることにしている。英ロンドン市でも、国際チェーンホテルを借り上げてホームレスの人々に提供している。

 都庁内では、東京都福祉保健局担当者3名が迎えて要望書を受け取った。ホームレス支援に当たっている各団体の代表が実情を説明した。要望書を受け取った東京都担当者は、しっかりと検討していく旨を述べた。

全財産が5000円という人も続出

 要望書を手渡したあとは記者会見に移ったが、日頃から当事者と多く接して人たちの話だけに、リアリティのある内容だった。

 緊急要請の趣旨説明に続いて、3月15日に生活保護に関する緊急電話相談会を実施した、ホームレス総合相談ネットワークの後閑(ごかん)一博氏が現状を説明した。

 今までぎりぎりで生活を維持できていた人たちの仕事と収入が自粛によって減り(あるいはすべて失い)、電話相談してきた人の多くが、所持金5000円、1万円というレベルだったという。

「多人数の世帯、たとえば子どもがいる世帯が10万円、20万円など、ある程度の蓄えを持っている場合、それが生活保護を受給するときの資産要件に引っかかることがあります。これを緩和することが大切だと思います」

 実際、子供を抱えた家庭で収入が途絶えた場合、数十万円の現金があったとしても困窮に変わりない。

 つくろい東京ファンドの代表理事・稲葉剛氏によれば、今度のコロナ問題でドイツは生活保護要件を緩和する措置が取られているという。

 稲葉氏は「ビッグイシュー基金」の共同代表も務める。母体の有限会社ビッグイシューは、ホームレスの人々の救済ではなく仕事を提供することを目的に雑誌「THE BIG ISSUE」(ビッグイシュー)を制作して路上において1冊450円で販売してもらい、230円を販売者の収入にする事業に取り組む社会的企業だ。

「テレワークや自宅勤務をする人が増えて街中を歩く人が減っているため、あるビッグイシューの販売員は、売り上げが30%減ったといいます。もし東京がロックダウンになったら、そもそも販売できるかもわかりません。

 ホームレスの人々に国際チェーンのホテル300室を提供したロンドンのような緊急対策をしてほしい。日本の一時収容施設は相部屋が普通ですが、感染拡大のためには個室が必要です」(稲葉氏)

困窮者を助けることは自分の安全に通じる

ホームレス状態の人たちに配布しているチラシ
ホームレス状態の人たちに配布しているチラシ

 NPO法人TENOHASI(てのはし)の清野(せいの)賢司代表理事は、東京・池袋で20年にわたり野宿者の支援を行い、世界の医療団と共同で、毎月第2・第4土曜日の夕方に東池袋中央公園で炊き出しや医療・生活相談を行っている。

「3月21日以降、自粛の必要性もあり迷いましたが、生命にかかわるので炊き出しを実行しました。同時に新型コロナウイルス感染防止のチラシやマスクを配布しました。

 ホームレスの人は、十分な食事と睡眠をとれず健康に問題があり、結核罹患率が発展途上国並み。3月28日の炊き出しで、施設に入った当事者が3人部屋だったため、感染が恐ろしいから出てきてしまったと話していたのです」(清野氏)

 生活保護を受けて宿泊施設に入居できたとしても、そこは相部屋。二段ベッドを並べて大人数で集団生活をしなければならない場合もある。

 そうなると、生活保護受給の緊急性がある人でも、新型コロナウイルス感染の危険を恐れて申請を断念する人もいる。前出の稲葉氏も「夜間の巡回活動のなかで60代男性が『感染が怖く個室がなければ生活保護を申請できない』と話していた」と実態を語る。

 清野氏は、こう強調する。

「現在の相部屋のような状況では、一番弱い人から感染が拡大してしまう恐れがあります。これは貧乏な人だけの問題ではなく、一番弱い人たちが感染することにより、そこからさらに感染が拡大してしまう危険があると思います」

 つまり、不安定な住環境にある人や野宿者を助けなければ、やがて生活に余裕のある人を含めて社会全体が被害を受ける可能性があるということだ。今回の場合、その「やがて」はすぐにやってくるかもしれない。

(1)生活保護要件を緩和して生活困窮者に生活保護を与える。
(2)公共施設、宿泊施設、ホテル借り上げなどで個室を提供する。

 これらは、緊急に実施する必要があるだろう。
(文=林克明/ジャーナリスト)

 なお、今回の緊急要望書を提出したグループは、署名を求めている。
「コロナ不況で住まいを失う危険のある生活困窮者・路上生活者の支援を求めます!!」

林克明/ジャーナリスト

林克明/ジャーナリスト

1960年長野市生まれ。業界誌記者を経て週刊現代記者。1995年1月からモスクワに移りチェチェン戦争を取材、96年12月帰国。第一作『カフカスの小さな国』で小学館ノンフィクション賞優秀賞受賞。『ジャーナリストの誕生』で週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。

 最新刊『ロシア・チェチェン戦争の628日~ウクライナ侵攻の原点を探る』(清談社Publico)、『増補版 プーチン政権の闇~チェチェンからウクライナへ』(高文研)
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